愚かこそ生きる肥やし/こたきひろし
であり
出勤時退勤時のタイムレコーダーが置かれていた
俺は偶然を装い惚れた女を待っていた
お互いの退勤時間は三十分ずれていたのに
度々それが続けば幾ら鈍感な相手でも勘付いている筈だ
だけど惚れた女はずっと素知らぬ振りを重ねていた
その夜
俺は彼女の後に付いてエレベーターに一緒に乗った
それは初めての事だった
俺の行動に惚れた女は驚いた様子だったが終始無言だった
俺はその沈黙にたえられずに口が滑ってしまった
今度一緒に映画でも見ませんか?
すると惚れた女は聞いてきた
今度っていつですか
それは長く苦しい恋愛への始まりの一歩だった
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