愚かこそ生きる肥やし/こたきひろし
 
便箋一枚惚れた女の名前書き綴る
封筒に入れて封をして切って貼って
郵便ポストに投函した

惚れた女の住所と名前を表に書いて
裏側の差出人の住所も名前も書かなかった

俺はなんて意気地なし
愚か者だった

次の日に
惚れた女と会ってって挨拶して
それ以上
何も言えなかった

惚れた女に何の変化も感じられなかった
俺は心臓が破裂寸前だったのに
それを必死に隠して平静を装ったのに
惚れた女はいつも通りだった

雑居ビルの三階にはサラ金の店舗があって
美容院があって歯科医院があった
そこはビルの最上階だった
一番奥の一室は二階のパブレストランの倉庫兼休憩室であ
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