からっぽの夜/ホロウ・シカエルボク
 

世界が目覚める前に
おれたちはそこにいて
翳りと虚ろを抱いて
道路標識の下で
帰路を忘れていた
腕時計は電池切れで
携帯の充電もあとわずかだった
夏の装備じゃ思ったより寒くて
自販機を探していたけど
明かりはひとつも見つからなかった
走ろう、とおれは言ってみたが
おまえは黙って首を横に振るだけだった
薄曇りの空に散らばる星は
美しくて容赦がなかった
腰を下ろした縁石は冷たく
強張っていて心地はよくなかった
どこかのバイパスを
時折飛ばしてく車の音が聞こえた
そこはどうしたって歩いて行けるところじゃなかった
夜だから知ってしまう
手の届かないもののこと

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