天の底/道草次郎
深い場所を見てみたい
どのぐらい深いかは重要じゃなくて
盥の底に右足を井戸の底には左足を
地下二百五十メートルの地層には抜き足を差し足はチョモランマの頂上へ
何かの底なら愛せるんだ
宇宙の底は薄翅蜉蝣(うすばかげろう)だねとあなたが囁く
ぼくはいつか怒って空風(からかぜ)になり草原を遁走した
そんな世界って変なつむじ風みたいだねって
あなたのセグメントとぼくのフラグメント
どちらも敢え無く拿捕されて豊かな午餐へ運ばれてしまうから
底のわたしあなたの底底の底その底の果てその果ての底そうやって底はたくさんなあり方をとりながら糸くずみたいに解れにほつれ
故郷をあなたは知っていますかしずかな細雨(ぬかあめ)の
雲の陰に隠れてひっそり泣いてる太陽
あれがレインの後ろ姿
だから複雑な底がいるんだと
うつくしい沈黙が足りないんだと
けれどもぼくには友達はいないから
あの雛鳥を見に
やっぱりひとり天の梯子を昇るのです
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