他人の車/道草次郎
匂いとちっとも変わりませんよ。鼻腔をせめるよく分からない有機物の匂いや、嗅いだことのない香料、革張りのステアリングカバーの手触り、それから後部座席の座布団から舞い上がる塵にいたるまでぜんぶ地球の何処かにあったものを再生産しただけです。これらの匂いや見た目や雰囲気に記号を与えるのは退屈だからよしましょう。でもあなたがそうしたいならずっと眼をつむっていても構いません。黙っていてくれても一向に気になりません。途中で降りたっていいんです。ぼくはそこらで待ちますよ。ぼくの事なんてただのジャガイモだと思ってください。そんな大人が一人ぐらいいたって良いじゃないですか。」
ぼくはぼくの仕方で社会に復讐を試み
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