詩と音楽と酒/ただのみきや
 
無邪気な錯覚

窓硝子の向こう木は踊る
風は見えない聞こえない
部屋に流れる音楽に
時折シンクロしたかのよう

時折シンクロしたかのよう
異なる声に欹てて
異なる何かに身を委ね
言葉を隔てたわたしたち





指輪

掌から漏れて
前後に揺れる香り
遺失物は女の姿をして仄暗く
雨の素振り
   ブルーノートに解けて





枯葉

美しく劣化する
夏に蓄えた陽光を
放射冷却が解き放つ
役割を終えて
一挙に燃焼し
秘めた鮮烈が明かされる
風の手を取り
軽やかに死に欹てて
譜面から舞い降りた
旋律は空
[次のページ]
戻る   Point(9)