呼ばれて振り返ると誰もいない/こたきひろし
りの大人が言った。
ひろちゃんはお婆ちゃん大好きだったからね。
そしたら母親が思いもよらない言葉を口にした。
この子はそんな子じゃないわ。心底冷たい子供なの。
小声で言った。我が子にだけ聞こえるように。
母親の言葉に
私はいっとき激しい近親憎悪の嵐に飲まれた。
母親もまた見抜いていた。腹を痛めて産んだ子の正体を。
私は生まれつき誰も愛せない存在だった。
そして誰からも愛されない存在だった。
チチ危篤の時も
ハハ危篤の時も
私の心の波長にほとんど乱れはなかった
と思う
と
記憶している。
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