呼ばれて振り返ると誰もいない/こたきひろし
チチ危篤の時も
ハハ危篤の時も
私は
馬鹿みたいに冷静だった。
子供の頃
母親に言われた事がある。
それは祖母が急に倒れてその日の内に息を引き取った日だ。
夜。
親類や身内。近所の人が生家に集まると
祖母の枕元で母親がいきなり泣き崩れた。
姑の死を悲しむ嫁を見事に演じて見せたのだ。
私は可愛げのない子供だった。
子供ながら母親の嘘を見抜いてしまった。
私は典型的なお婆ちゃん子だった。
いつも祖母のあとばかり追いかけて、母親にはなつかなかった。
その時私も母親につられたように泣き出した。それが優しい孫の姿だと鋭敏に感じ取って。
すると周りの
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