獅子の町/田中修子
 
けだものだったころが、もうあんなに遠く
淡い水色を地に、薄紅色の薔薇柄の薄いカーテンが
夏の終わりの風に
パタパタ揺らめいていて ベージュのソファがあり
包帯
外の桜の木の緑が、盛りだけれど赤く燃え上がっていくのが

淡い瞼の、うすうい虹色のスパングルの
きらめきが満ちている沼のなかに
滑り込んでいくように 鱗になって皮膚に纏わりつき
あらゆるものを閉じて、血が止まるから
もっとつよく 太古の魚に変化する前に
脚を蹴ることができる
心底に辿り着き

町だ
春でもないのに蓮華の花が降りそそぎ、落ちては地に綯いまじり
塩山を繰りぬいて、ランプを灯している盆地の町だ

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