朝 (他六篇)/道草次郎
花の塊が
やさしく上下をしていた
サルスベリは全体としては
夏には暑苦しく感じられるほど
その印象をつよく残す花ではあるが
秋も中旬に差し掛かろうとする頃には
いったんその色合いも落ち着いてくるとみえ
弱まりつつある秋の陽射しと
うまく折り合いをつけたかのような花色は
心もちその色相を
下の方へくだりつつあるように映る
季節の移ろいの中にあって
ただ一本の潅木も
その様相を時々に変容させていることを考える
今まで知らなかった自然の姿が
この何度目かの秋の突端に於いて
さやさやとその調べを奏で始めているのだ
そこには一片の疑念ももはや
差し挟むことができないように思われてならない
何かがあるのだった
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