夭折/ただのみきや
リナに耳を当て
谷に架かった橋の上から
足下を渡る青い蛾の群れへ
爪先からそっと降り立った
上手く水を飲めずに溺れてしまう
胎児は魚を辞めて肺を持ったのだ
ぼくが煙草で穴をあけた
母の黒いシミーズから漏れて来る
乳白色の煙が巻き戻されると
ひとつの痛点が幻影を太らせる
ジェットコースターの螺旋を越え
ミラーハウスくぐり抜け
弟は旅立った
人身御供のゴンドラは
濃い雲と薄い雲の間を滑る
言葉にならない現実を玉手箱に詰めて
おとぎ話は無邪気なまま
瞼を封印する青い蛾
《2020年9月12日》
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