母/道草次郎
 
空があるだけだ

いまいきなり電話が掛かってきて
死ねと言われたら
ありがとうと涙するだろう
腐りきった
いや
腐れもせず
炭化したよ

ダンボールに描かれたパンダが
こちらをみて笑っている
いま死んだら
たぶん
このパンダが視界から消えて
ずっと
真っ暗になるのかなと思うと
なんだかヤになって
タオルケットを引っかぶって
寝てしまおうと思う

まん丸く膝を抱え
包まれて
睡魔がきたら
最後の意識を
ああ今死ぬんだなというものにすり替えて
眠りに落ちるんだ


母が
咳をする

ぼくの
からだ
その
使い方次第で
きっと
いくらかのお金が
ぼくの罪を緩和し
母の咳止め薬に
なる
とふと思う

そう思うと
このからだが
すこし有難く思え
この心は
すこしつまらなく思えた

死なないでおく
という
そのことだけで細々と繋がれた今日という日は
風鈴の音色のなかでいつになく
普通のツラばかり
押し付けてくる


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