いずれすべては跡形もなくなってしまうけれど/ホロウ・シカエルボク
命無き波のように打ち寄せる虚ろには必ずふたつの目があり、そのどれもが焦点がずれている、右目のほうが少しだけ内側に入り込んでいるのだ、それはまさしく俺の目であり、早い話、俺は俺そのものに飲み込まれまいと躍起になっている、昼間には太陽も少しだけ顔を覗かせたが、そいつが沈んでしまうと陰鬱な夏の曇り空だ、エアコンの息継ぎの隙間から多足虫のような湿度が這い上がって来る、覚醒剤中毒者がそんな幻覚を見ると聞いたことがある、だけど俺の身体は綺麗だぜ、少なくとも腹の中よりは…死の感触は初めから隣にあった、おそらくは、生まれてすぐに死にかけてから、ずっと―あの時に俺は何かを知ったのだ、そして、それを思い出そうとし
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