残熱/道草次郎
 
くは何かがそうする事を拒んだ。ぼくはしばらく人気のないさびれたアーケードを闇雲に歩くしかなかった。いくつかの感情がその者の持つ特質をよく表すことや、そうした特質がその者の今後の運命すらも決定づけるようなターニングポイントをもたらす事などについて、あてのない思考をどこまでも彷徨わせながら。


Uさんとは、それきり会っていない。その消息を知るには新聞の俳壇にUさんの名前を見出すしかない。しかし、Uさんはこのところ不調なのかあまり顔を見せないでいる。Uさんのお宅の二階に堆く積まれていたNHK俳壇のテキストの佇まいは今でも忘れられない。奥さんの趣味だった押花は、今もまだ、あの二階の丸窓の脇に飾られているだろうか。

ついにUさんの口から語られることのなかった絶望と復活の物語は果たして今どこを漂っているのだろう。それを知る手立ては今のぼくにはもうないのだ。





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