残熱/道草次郎
ものだ。ぼくは平気な顔こそしていたものの内心はかなりしんどくて、Uさんのお宅に行くのはいつも気が重かった。
そんな日々が何年も続いたある日、きっかけは何だったか忘れたがUさんにお前も俳句をやってみろと言われたことがあった。大した考えもなしにぼくは軽い気持ちでいいですよと安請け合いしてしまった。というのもぼくも俳句が嫌いではなかったからだ。
二日後の入浴介助の後、即席で作った数句を書き付けたメモをUさんに渡した。Uさんは自分専用に改造した特殊な装身具を指に嵌めそれを器用に受け取った。残存する肩の機能だけでパソコンさえ使いこなすUさんには、そんなことはわけのない事だった。
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