朝食へ至る/道草次郎
て杳として禅定に入る
注がれてから暫く経った鳩麦茶は早くも滝のような汗を垂らしている
斜めに端なく交差した二本の箸のそれぞれ指し示す先には
捲られて間もない明治数えを売りにしたカレンダーと
朝の光をぶつ切りにする葦簾の矜恃とがある
座して姿勢を正しリモコンのONボタンに今まさに人差し指を持っていこうとしているのは
三十五億年前から連綿と絶える事の無かった自己複製分子のガタピシいう不完全な神輿
或いはその肩に無邪気な妖精を遊ばせている寂しいうなじの付随物
「いただきます」という画期的な宇宙的言辞は咽頭より吐き出され
箸を手にするその節くれだった食指にはデボン紀の名残り
味噌汁の味は遥か太古の海の記憶を呼び覚ます
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