預かり物/AB(なかほど)
わけでもない
預かりものは
とっくに鳴らなくなっているはずなのに
時折
心臓の横で
立ち上がった足下で
伸ばしたほうの手の指先で
白い壁にはそのドアしかなくなって
そのドアの向こうで
ただ
ドアが開くのを待っているのか
閉まってしまうのを待っているのか
握りしめたものは
もう鳴らないはずで
それでも
背中の方からも
ぷちと確かに
子供たちの声の隙間から
ぷちぷちと
聞こえて
やがてまた
待合用の椅子に座り込んでしまう
と
預かりものは
もう鳴らない
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