予兆 ―プロフェシー―/岡部淳太郎
何かがゆっくりと近づいて来ている。それはやや静かに、それほど大きな音ではなく、それでも耳をすませば確実に聞き分けられるほどの大きさの足音を立てて、僕たちのそばに忍び寄ってきている。人々は早くも悲しみ、倒れて、既に疲労感をあらわにし始めているが、これはほんの始まりに過ぎなくて、これの後にはもっと大きなものがやってきて、それによって人々はもっと深く悲しみ、もっと大きな混乱に陥ってしまうかもしれない。しかし、それはいまのところ誰にもわからない。いま敏感な者たちはそれを、いまだによくわからないがためにとりあえず「何か」と名づけておくしかないそれの到来への予兆を感じ始めてはいるものの、それがいまよりももっ
[次のページ]
戻る 編 削 Point(2)