野菜雑感/道草次郎
ことになる。その繰り返しが季節の移ろいのなかに織り込まれていて、人間はチョロチョロとその周辺をうろついる。野菜はいつも黙って人間のなすがままだ。
先程からずっと凄まじい夕立が続いている。ぼくの住んでいる長野県では最近、雷が多発しているらしい。県内だけでも昨日は八千を越える落雷が確認されたそうだ。
恐るおそる個室の小窓から畑の野菜の様子を覗いてみる。激しい横殴りの雨のなか、トマトと茄子とキュウリの頭がかすかに視えた。野菜たちはゆたかに茂らせたざんばら髪みたいな葉っぱを思う存分に上下させていた。まるでヘッドバンギングみたいだ。せわしなく動くワイパー越しに現れ出た事故車輌をうかがうような気分で、ぼくはそれを見ていた。
そこには子供のような自由と喜びの感情があった。ぼくは私かに感嘆し、少しだけ卑屈な気分になる。そして、カーテンを閉め屋根のある人間の生活へと戻るのだった。
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