フロントガラスにちいさな蝶が止まった/ただのみきや
 
なら朝の中に夜がある
夜を睫毛にそっと乗せて若い娘の踵が秒針より早くアスファルトを刻むと
太陽が追いかける平らな空を転がってゴッホみたいに大気を燃やす
いつの間にか女の口から椰子の木が生えて実もたわわに生ってしまった
今ヤシガニがTシャツの中で乳首を摘まんでいる
わたしはなにから整理したら良いか解らなくなり
ただラジオになって受信する
そうしてラジオは発狂する
わたしは天ぷらであって辺りを煮え滾る油へ変えてしまうだろう
月は胎児の断面ように曖昧な質量を醸し
いつまでも溶けるように在り続けた




                         《2020年8月23日》







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