夢幻の話/道草次郎
 
もはや二刀流ですらなく、山賊が持っているような錆び加減の匕首を手にしてるだけだった。血が滲んだ長細い鉢巻がタラりと頬に垂れていて、武蔵が相手を睨みつける度、その先っぽを舌もろともイヤらしく噛んでいたのが妙にリアルであった。


「生存の幸福と非現実性」


しかし、間(あわい)から現実へと移行する際のわずかの瞬間…(それは一秒にも満たないほんの刹那であったが)の感覚は鮮やかに覚えている。
それは、生存を脅かされることの殆どない日常というものがどれほど貴重であるかという直感である。この直感だけが暫くのあいだ、どこかしら非現実的な妖気を発しながら薄暗い部屋の中を浮遊していた。
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