カルカッタの動物園にて/狸亭
 
十九世紀の石造りの建物が
蝟集する街
周囲に広がる田園や川や木々の緑の
歪んだ円形が
豊かにどこまでものびてゆく

牛糞が舞い
排気ガスや人の群れの
めくるめく騒音の海から隔てられて
一八七六年開園のインド最大の動物園は
置き捨てられてある

粉のように薄い埃の積もってゆく森
濁った池
無造作な鉄の檻
コンクリートの蛇の館
群れをなして飛ぶ無数の鳥

巨大な檻の中にさらに檻がありその檻の中に
白虎がいる
気の遠くなるような
遥かな過去からの
血の系譜

猛獣の原風景を湛える眼が鈍く光り
黄昏に向かって咆哮する
人間どもの好奇心によって生まれたタイゴンは
虎の血を父に
獅子の血を母に

奇形の怒りを裡に秘めて
静かに歩く
消えかかった
縞模様が
無慙に濡れる

一本の柳の木が
高く高く空の高さを超えてそびえ
風に揺れている
不安定な枝に止まった二羽の鴉の会話は
長い旅の果てのものだ。


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