記憶から/道草次郎
T君は何の遠慮もせず、ぼくに向かってズケズケと質問をした。どんな質問をされたかはそのほとんどが記憶に乏しいが、質問しているT君はどこまでも子供の頃一緒に登校していたあのT君のままだった。ぼくは顔にこそ出さなかったが、かなり狼狽していたと思う。ドアを開けると、いきなりそこに、自分の子供時代が立っていたという経験はそうそうあるものではない。
最後にT君はこう言った。「J、お前人格変わったなあ」ぼくは頭をガーンと叩かれた気がした。それまでにガーンと叩かれたのは、父の癌がステージの末期であることを母から知らされた時と、その母が父と同じ病気になったのを知った時の二回だけだ。その後、T君は
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