記憶から/道草次郎
 
君は何事もなかったかの様にぶらっと帰っていったが、今思うと、ぼくにとってその日はたいへん意味のある日だったと言わざるを得ない。


ときに人は、自分には計り知れない何か大きな力が存在している事に気付かされることがある。それが神による布石なのか、何なのかは判らないが、少なくともぼくにとって、それは確かな実感を持って存在している。そんな事を図らずも考えさせられた出来事が、T君との再会だった。


「じゃあな」そう言って去って行ったT君の後ろ姿を思い出すたび、なぜかぼくは、少しだけ自分の人生を遼くから眺められるような気がしてくるのだった。






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