エメラルドグリーンの流れとねずみ大根と女郎蜘蛛の話/道草次郎
。俺はね、そんな人間なんだよ、けっきょくは」
妻は黙って最後までそれを聞いていたが、やがて諦めたようにこう言った。「何時ごろ着きそう?帰りに西友に寄ってくんだよ、疲れてるだろうけど。明日出るのイヤなんでしょ」
ぼくは無言でうなずくと心なしかスピードを上げた。速度計の数字がすでに制限速度のそれを遥かに上回っていたにもかかわらずにだ。それとは反対にエンジンの振動音は徐々に穏やかになっていった。
いつしか景色は、千曲川の見事なうねりが一望できる急なカーブへと差し掛かっていた。ちょうど午後の陽射しが水面にゆらゆらとその輝きを放ちはじめる頃だった。中洲では一人の孤独な釣り人が、とてつもなく長い竿を紺碧の虚空へとふるっているところだった。
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