北窓開く/佐々宝砂
に眉間に
目にしみるのは
よくわからないが
血液なのだとおもう
ぐりぐりとえぐる
硬いのが頭蓋骨だろう
渾身の力でえぐる
我が第三の目よ開け
松果体よ
この最期のときに本来の機能を発揮せよ
そう これが
ただひとつわたしが未練におもっていたこと
南側に大きくひらいた窓から
わたしはこころあかるく身を投げる
さよなら
さよなら
いたぶられているみじめな少年よ
加虐することしか知らぬ男よ
わたしは心からしあわせだ
さよなら
目覚めて
わたしは北の窓を開け放つ
昨夜の強風がわたしの庭木を一本倒している
面倒くさいが片づけるほかない
北の窓からも春風
春風はやがて
新茶の香りを運んでくるだろう
初出 蘭の会2005.4月月例詩集「開く」http://www.os.rim.or.jp/〜orchid/
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