北窓開く/佐々宝砂
強風の夜
窓の向こうで大きな音がした
恐怖に叫んだかもしれないが
身動きしたかもしれないが
記憶にはない
まだ幼い少年が
フルフェイスヘルメットの男に殴られている
やわらかそうな唇は歪み
瞳は恐怖におびえ
腹立たしい私は
フルフェイス男の腹にナイフの洗礼をくれてやる
それからついでに少年の咽にも
ふたり 殺した ということになる
なにひとつ未練がないと言えば嘘になるが
南向きに大きく開いた窓の向こう
きらきらと青い春の海が誘っている
そう 簡単なこと
飛び込めばいい
わたしはナイフを突き立てる
自分の額に眉
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