血栓(1)/まーつん
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晩夏の夜、郊外。
棟を連ねる家々の窓明かりが
街路に光を落としている
そこを、通り過ぎる人影が一つ
彼はうつむきながら
こんなことを考えている
…人は互いに繋がりあって、
家族という細胞を作る。
それらの細胞が互いに連なって、
社会という生き物を作る
今、家族を作らず
一人きりのまま大人になった自分は
言うなれば、社会という生き物の血管を旅する
小さな異物だ。
「社会」、
その大きな生き物の腸は
俺を消化できない、
溶けることを拒む、この硬すぎる心を
無理に僕を取り込もうとすれば
腹を壊すだろう、何故なら俺という人間は
何処か、腐っているから
俺は
細胞になれなかった分子
自分の心を細かく噛み砕いて
作り直すことができず
社会の一部になれないままに
時の回廊を転がり続ける、頑迷な小石
やがて血栓となり
この社会という生き物の血管を
詰まらせるだけ
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