傘の下に降る雨/こたきひろし
 
悟られまいとして

「それじゃ何処へ行きたいんだ?」
父親が静かに尋ねた「巨大ショッピングモールへ行きたいな」と娘は言って同時に妹に無言で同意を促した


自分達の暮らしの貧しさは容易に数字に出来る
父親は返事を躊躇った
父親の顔色を見て長女がすかさず言った
「何処へも行かなくていいよ お金ないんだからさ」

父親は言葉を返せなくなって黙った
「何処へも行かなくて家にいるのがいちばんよ」
と母親が口を挟んだ

暮らしの貧しさに
心までもひもじくなるのはたまらない

それは一つの傘の下に身を寄せあって
傘が役にたたずに
皆が雨にずぶ濡れになって仕舞うような
悲しさとやるせなさを
感じてしまうような思いだった
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