単細胞生物のイブ/あらい
 
過去は捨て去られて夕暮れを、纏う
希に転写されたネオンが眩しく
目頭を押さえると涙袋に到達する
飲み込んだ澱が留まる処

別邸には湖があり家鴨が子を産んだ
幾度も繰り返される幸福の形でも
上澄みを掬うと波状の鱗粉が浮かび上がる
沢山の笑顔から剥がれた思い出達
蔓が重る 椿並木の奥に潜む女豹
今、ゆっくりとその姿を霧散させる
魂は声もあげずに、生きたまま死んでいく
記憶、再生の時を迎えても
煮え立つ愛に浸しても、渇きクズに孵る

ただ繭玉を愛している

しょっぴく虹彩と紙縒り指先に、しとどまる
地上に投げ出された隕石、道端の石と化かし
楔に繋がれ逃れようもない、くたびれたひび
こともなき、はだかのひと、衣装と化粧をはたく

北極点に寄り過ぎた柩に素足で描き出す
無邪気な三毛猫が遊んでいた植木鉢の種が
およそ七針ほどの距離の青葉を茂らせる
黄身がかった裸電球の白い花を焦らすという
姿を消した夜の街に、皆を閉じ込めて居る。
気づくこともない、終を重ねる人、
世に云う楽な仕事だ

戻る   Point(1)