なしごころ/ただのみきや
 
たの中で
捕鯨船団が街を襲撃している
緑色の叫びが三半規管をトライアングルに変える
毛むくじゃらのその子はあなたに似ている
齧ったのはレモンじゃない
よく見てごらん
それがレモンに見えるのか
半月板にあててごらん
カナリヤを磨り潰すようにオルゴールが
ギクシャク歩き出す頃に
港色をした誰かの頬が
絵画の中の瞳よりも
後ろから心臓のベルを押すだろう
時針と分針を抉じ開けろ
一匹の雄のように的を得ろ
酸っぱいペンキ色をした嵐の中で
爪のない本が羽ばたいて
やわらかい真珠をぽろぽろ吐きだすと
いつも坂道を上るような
背中を曲げた隠喩の群れが
古代の祭壇で生贄にされる
匂いだけが現代にも漂っている
だれもが知られない祭りに溶けて



                  《2020年8月1日》










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