なしごころ/ただのみきや
 
散歩道

彼女は二つの嘘を連れ歩く
いつも同じコースで
一つの嘘は人懐っこく誰にでも尾を振った
一つの嘘はところ構わず吠えたてる
どちらも夜のように瞳を広げ
油膜で世界を包んでいた
彼女は二つの嘘を連れ歩いた
マスクにサングラス目深に帽子を被る
記号化の代償のように





戯曲作家

作家は悩んだ
様々な不幸と困難を用意はしていたが
いざ書こうとすると 筆が止まる
自らが神のような存在に思えて来て
過酷な運命を付与される主人公が哀れに思えた
つい手加減して逃げ道を用意したり
別の台詞に書き変えたり
いつまでたっても戯曲は進まない

[次のページ]
戻る   Point(4)