明と暗/こたきひろし
もうすぐ八月
今年も盆が来る
故郷の生家には誰も棲んでいない
父母はとっくの昔に草葉の陰に隠れてしまった
実家の直ぐ近くに先祖代々の墓がある
辺りに点在する家々の墓はそれぞれが単独の墓地だ
集合墓地ではなかった
盆が来る
盆には亡者が帰って来るらしい
本当かな
誰もそんな事信じていないだろう
八月
今年もくそ暑いだけの夏が来るだろう
先祖の霊が何でわざわざ酷暑に帰りたいと思うんだよ
霊だって涼しい季節に帰りたいって思うだろう
盆が来る
盆を口実に
生きている人間が
夏を休みに来るんだろう
人間の生きる知恵って事だろう
第一
私の実家は空き家なんだ
盆が来ても誰も帰って行かないよ
先祖の霊を誰もむかえに行かないよ
私だって今年も墓参りはしないよ
姉二人は霊になってしまったし
形だけ実家を継いだ兄貴は施設で植物同然に
なってしまっていた
来月
今年も盆が来る
くそ暑いだけの夏が来るだろう
感染症の呪縛も伴って
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