鬱が鬱が鬱が鬱が/こたきひろし
何だか辺りの空気に魚の腐敗した匂いがする。
私の気のせいかもしれないが、身体中の毛穴から茸が生えて来そうな気分だ。
じめついている
全ては雨のせいだ
この国の雨季を象徴している雨だ
降っては止み
止んでは降りだす。
ねぇ
と女が言った「明日も雨みたいよ」
「ああ、そうみたいだな」
と男が返した。
男も女も明日の天気予報をネットから仕入れていた。
「蒸し暑くてさ気が変になりそうだわ」
女が言った。
アパートの部屋の湿気を二人は吐き出したり吸ったりしていた。
それを繰り返しているうちにお互いの肺の壁に黴が繁殖してしまいそうな気がしてならなかった男は、それを振り払いたくなってたまらずに突然女の顔に自分の口を近づけてそのままキスをした。
女は最初、吃驚した表情して拒んだ。しかし男の強引を受け入れた。
それから二人は虚ろな目と目で見つめあい、湿った畳の上に抱き合ってそしてもつれあった
そこからなぜか鬱が鬱が鬱が鬱が鬱が
淫靡な鬱が
隠微な鬱が
男女の肉の中心から広がっていった。
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