双雨花/木立 悟
戸口に見えない花がいて
あわてて扉をあける夢を
幾度も幾度も見たあとに
切り忘れた爪を思い出す
床に置かれた硝子の内には
水の影が流れている
割れた鏡に映る横顔
消えては現われる光の横顔
たくさんの淡い手首が
土の上の輪を回している
空に近づけば近づくほど
空を知らない花たちに
曇は静かに手をさしのべる
雨
手を握ること
笑い
花の音
雨
目をつむること
水色の横顔
過ぎ去ってゆく
川に沿って歩む闇を
見えない旗が追い抜いてゆく
空はむずがゆく逆さまに
地のほうからはばたいてゆく
にじみひろがる音のかたちに
ゆるやかに解かれる花のかたちに
割れた鏡に指を触れる日
どこもかしこも水の音の日
傷の端に咲く花を手に取り
流れる影の道をゆく
どこまでも
流れる花の道をゆく
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