頭の上にかもめが落ちて来る/ただのみきや
 
むかしばなし

幾千幾万の囁きで雨は静かに耳を溺れさせる
まろび出た夢想に白い指 解(ほど)く否かためらって
灰にならない螢の恋は錘に捲かれて拷問されて
透かして飲んだ鈴の音も夜明けの前に破られる
始まりも終わりも閉じた円の何処か
忘れ去られた約束の
今はもうなくいつまでも
戻らない 面影は
見定めようとすれば淡く朧
忘れようと想えば冴え冴えと
美し空虚一つがぽっかりと満ちも欠けもせず
翼で抱く不器用さ
活けるつもりでただ殺し
這い寄る虫のように化け冥府の星より黒々と
滴る文字だけ点々と




ある愛のはなし

――一生分のまばたき
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