母親の変態についての手記/ゆるこ
れを、とても正しいと思った
母親はまさに
すべての汚い、恐ろしい、悲しい、むなしい
物事からすくわれようとしていたので
私はそこから
ベットの上の母親の変態を、観察し続けていた
半年後には脳が半分 綿菓子のようになくなり
一年後には 口内の歯が魚の群れのように抜け落ち、
二年半後には カテーテルを通していた左腕が、面倒くさそうに腐り落ち、
そこから順々に、四肢は腐り落ちていった
四年目には 悲しいにおいを発しながら胴が気化し、
髪の毛、目玉、口、のどぼとけなどは
割と残っていたが、そのうち静かに消えていった
そのころには言葉は交わせなくなったが、
唯一残る 心臓からは
小さいころ聞いた 母親の実家の
駄菓子屋のにおいが ずうっと香っていた
私が子供を産んだ日、
母親はとうとう すべてを地球に返してしまった
もう母親の顔は思い出せないが
生まれたての子供からは
母親の心臓と 同じ香りがした
似ているかも 今では不明だが、
時々子供の頭をまさぐっては
母親の心臓を 思い出している
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