エルベレス/竜門勇気
外で金木犀が、しゃき、しゃきと鳴る
毎朝見かける大きな芋虫が
果てしない夢を見る音だ
世界に君が食えないものなんてない
満腹なんかないし時間なんかも関係ない
今日と明日を続けてればきっと
どんな類の空白も過去になるんだ
振り返って満足しておしまいさ
外見が違えば私達はきっと
明日から知らない顔をして暮らしていく
君は念を押すようにつぶやく
窓からしゃき、しゃき
大きな芋虫は無心に一枚の葉っぱをかじる
明日、私達はきっと何も思い出せない
しゃき、しゃき
僕は思い出せないなにかのことを
ずっと考えるよ
しゃき、しゃき
コーヒーカップのなかで
一口残された水みたいに
何もかもが答えみたいに振る舞う
どのドアにも、窓にも、引き出しのただ一つにすら鍵はかかっていない
どこからでも出ていけばいい
美しいものすらここには入れない
僕らであることだけでここは聖域になっている
神様も好き勝手にできない
僕らであることだけ
それだけの場所だ
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