雨はきらいじゃない(落ちの無い話)/山人
れ、私は山頂との密会を断念した。
帰りのコースは、もうだいぶ歩いていないコースを下ることとしていた。登山道は他者によって広く刈られていたが、支障木は多く、細かい作業を雨の中ずっと続けた。めったに通らない不人気のコースなのかツキノワグマの糞が転がっている。山菜でも食ったのか便が青っぽい。こんな人気のない登山道では獣たちの往来の方が多いのだろう。獣たちの往来の為にも残しておかなければならない道なのかもしれない。
だいぶ前に何回か通った道ではあったが、随分と記憶がなくなっていてずいぶん長く感じてしまう。チェーンソーは雨で不具合となり、下着は汗と蒸れと雨とでおびただしく濡れて気持ち悪い。雨は霧を伴い、ザックも次第に開け閉めしている間に濡れてきて、体と衣服と心までも雨と一体化してしまっていた。体全体とそれを包む物達が混然と雨に濡れていた。その気持ち悪さの中でも作業は続けられ、機械音は最後まで鳴っていた。
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