静かに乱れる呼吸/ただのみきや
 

まだ褪せない菖蒲の色香
知ってか知らぬか小雀が
ついばみ舌を潤して
雲の重さをいぶかしむ
昨日も明日もないものに
きょうの風はあたらしく
その匂いはなつかしい
うすむらさきの花房の
濡れてしぼんだその様は
還すにはまだ惜しまれる
やがて傍らに立つ
懐かしい六月の陽射し
恋しい光に送られて
土に還るか人手にかかるか
蠢く微小なものたちは
ふつふつと ふつふつと
ものごとのしがらみをほどきつつ
吐息を天へと押し上げた
学校帰りの子どもらの
運動靴がすぐ側を
掠めるように飛び跳ねて
固い歩道を打ち鳴らす
鈴や笛の声をさせ
幼い巫女の神遊び
枝から枝へ雀も歌えば
風もにわかに寄せて来て
呼び覚まされた午後の陽の
眼差しにも 伏したまま
菖蒲は燃える
しっとり 蒼く 淡く




          《2020年6月13日》







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