小詩集・そよぐもの/岡部淳太郎
 
しい風景であって

もう心になってしまった者たちは
自らの醜さをその前では
ひとときだけ忘れて}


そよぐもの 5

そよぐものが
その動きが頬に触れた
ように思える正午
かすかなこそばゆさとともに
笑いながら人は
なにをあきらめ
なににつとめて
向かってゆくのか



そよぐもの 6

これからのことなど
これまでのことなど
どうでもいいんだ
そよぐものの前では
人はただまどろみながら
自らもまた
まぼろしのように



そよぐもの 7

そよぐものが
そよぐことを
やめた時
すべては動きをやめ
時までも止まる
まぼろしに似た現(うつつ)
そこから人は踵を返して
なにを探しに旅立つのか



そよぐもの 8

われ関せず
なにも知らぬのかのように
ただそよぎつづける草
ただいのちであるだけの広さ
きっと
幾度争いが起こり
その度になにかが失われても
変ることなく
永劫のように




(二〇一七年八月)
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