無題/朧月夜
 
と、不安と。


ガラス球は広がりながら、離れていく。
わたしたちもそれに連れて、
魚たちの声が遠のいていく。
魚の声を聞き届けるのは、天ではない。人だ。

それはたしかに心に届き、
想いを揺らす。

(透明ではない)
(一匹の魚)


何を求めてさまよっているのか、
誰にも分からない。
きっと彼にも分からないのだろう。
それは、追うべきではない秘密かもしれない。

魚は言葉を発することができない。
それは永劫の孤独のようでもあり、
実はそうではないのかもしれない。

想いは、伝わるだろうか。


それは誰から誰への想いで、
わたしたちは何を見ていて、
そこから何を感じ取っているのか、
確かめようにも確かめるすべがない。

もしも明日、
洗濯物を乾かすように空が晴れたならば、
魚の心は晴れるだろうか?
室内にある一つの球体のなかでも。

それぞれが宇宙であり、生命の器である。
わたしたちは、魚の声を聞き届けることはできるが、
魚に想いを届けることはできない。
一方通行の、遮断されたコレスポンデンス。
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