道楽者/ただのみきや
 
メになった
炎の中の海へ 一塊となって沈んで往く
声にならないまま還る歌のように

吐息がいのちを消し去れば 熱も煙も残りはしない
たとえなにかが残されたとして
もう闇と不可分 沈黙の口に仕舞われたきり

やがて完全密閉されて光を洩らさない
人は幻灯器になる



鍋いっぱいの静けさが音も無く煮立っていた
わたしたちは無言の会話に溺れた死体なのだ
網戸から風が吹き込むと
書棚の本たちが一斉に笑い出した
幼い頃にアクアマリンを飲み込んだ
あなたは海より空を愛している

食卓を一匹の百足が歩きまわる
それは薄められた精液から生まれたものではなく
古い詩篇から
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