命日/七
今夜は魚の塩焼
ちょうど良く焼き上がって
美味そうだ
食べようと箸を近づけたそのとき
そんなはずあるまい
魚と目が合った
どうかしたのと向かいの母が尋ねるので
なんでもないよと言って
魚の目を見ないよう気をつけながら
もう一度箸を近づける
腹のあたりに箸先が触れたかどうかというところで
あっ
と魚が言う
再び箸が止まるといよいよ母が怪しんで
訝しげな視線を向ける
わたしは誤魔化してビールを口にする
冷静にならなければいけない
ふと母の皿に目をやると
魚はまだ食べられていない
よく見れば
母の皿の上で魚が泣いている
そしてわたしの魚も
いつのまにか泣いている
その夜ふたりは
魚を前にビールばかり飲んでいた
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