八重に愚かに/ただのみきや
 
雨の吐息に八重咲きの桜しばたいて
落ちたしずくを掻き抱き夢見心地で逝く蟻の
  複眼の曼陀羅
    太陽を入れた万華鏡

黒曜石は夜に溶けながら半球を渡る

うす闇からうす紅
八重に包んだ夢もみな開いて散って
  朝へ吐きだす意識の裸形

たカーテンをあけ
かつて桜のあった場所を見つめている
瞳の表面張力
   どこからか舞っては降りる花びらの
   漂う小舟 触覚を振るわたし沈んで




                 《2020年5月17日》







戻る   Point(4)