鏡/こたきひろし
 
好きだった

人生に零から始まるものは何もなかった
それは
人生に限られてばかりはいない

万物にも零から始まるものは何もなかった

なのでなんびとも何事においても
一から始めなくてはならない

男と女が愛し合う場合も段階と順序が用意されなくてはならない

興奮は高め合わなくてはならない
お互いの体の隅々まで行き渡らせなくてはならない

嫁入り道具の姿見は埃を被っている
女がもっぱら使うのは手鏡だった
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