チーズの箱/ブッポウソウ
 
い?

あの瞬間、この者は自分の今までの右往左往をあざ笑われたような気がしたのだ。未来の利益より現在の興奮のみを追求しているー少なくともこの者にはそう見えるー同居人によって。しかしこの者は、この同居が自分にとって数少ない迷わざる選択だったことを、同時に思い出してもいた。

一人のつかれた様子の人間がうす暗いギャラリーの一角に立ちつくしている。一枚の絵を眺めている。もう長いことそうしている。それは、『日』と題されたその絵に、乱雑に集積された見覚えのある品々やそうでない品々ー英文字が刻印されたガラスの小瓶、湯呑み茶碗、金縁の眼鏡、筆記具、手紙らしき紙束、鋏、釣り上げた魚を得意げに差し上げている少年の姿を象った置物などーに混じって、あの見なれた赤黄色の円盤型の紙箱が、まるで夜の闇の中にともる灯りのように、描かれていたからだった。
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