チーズの箱/ブッポウソウ
一人のつかれた様子の人間がスーパーマーケットの一角に立ちつくしている。棚に陳列されたあるチーズを眺めている。もう長いことそうしている。それはアルミ箔で六等分に個包装され赤黄色の円盤型の紙箱に収納されたチーズだ。以前この者の同居人が誤って、というよりは不注意で、つまり、白色でなく赤黄色の方を購入して欲しいと注意喚起されていたにも関わらず白色の方を購入してきたことがもとで、この者が憤激に至ったことがあった。
「あかきいろの無かったんだ」
「ああ、うんなんか無かったぽい」
というやりとりがあった時にはそこまでの憤りではなく、ぽいたあなんだまったくこいつぁ、程度のものだったのだが、その後の
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