術もなく/ただのみきや
 

なよやかで臆病な耳を弄(まさぐ)る行為に溺れていった
疑い深い陽炎となるために
散る花の声色を真似ながら
あなたの中に自らを映して身支度をした
古の書物に運命を見出した少年の無邪気さで

愛と名付けた殻を脱ぎ捨てて
どこかへ飛び去ったのか
光を透過させたり歪めたりして欺いて
美は識別するものをもてあそぶ
欠落して点と点を結ぶだけの今はただ
忘却を呼び覚ます不安な予感でありたい
帰らない部屋の枯れた花束
いわれなき幽霊の眼差し
青く塗った軽口を虚空に押し当てて



                  《2020年5月3日》








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