術もなく/ただのみきや
愛は真っすぐ丘を登って行った
蹄の跡を頂に置き去りにして
光は渦巻いている
春の風がむき出しの土を弄(まさぐ)っている
あの日太陽を塗りつぶしたのは誰だったか
わたしの心臓を突き刺した指先で
盃からこぼれる神話を影に描いて見せたのは
あなたではなかったか
時間の轆轤(ろくろ)でなめらかに仕上げられ
逆光をまとい振り返る
風で捲れるページのような
耳を澄ますと白い翼が片方だけ落ちていた
不法投棄が絶えない谷底で植物に覆われて
つながりを失くした欠片は一個の全体で
価値や意味の脱色された美しい無名となる
顧みられることのないものが見いだされる時
天秤
[次のページ]
戻る 編 削 Point(10)